細けぇことはいいんだよ!シリコンバレーのNFC交通事情と開発スタイル
日本であたりまえのSuicaやPasmo,日本がNFC先進国と呼ばれていたのは今は昔。米国でもじわじわとNFCを使うシチュエーションが増えてきた。というか、この1年ですっかり日常に溶け混み始めている。その普及速度はとても速い。
(まだ利用者はそこまで多くないので、コモディティ化とまではまだ言えないが)
代表的なのはClipperCard。これは、日本のPasmoみたいなもので、バス、カルトレイン(電車)、路面電車で共通して使える電子乗車券だ。面白いなぁと思うのが、実装が超簡素で、運用がすっごくレイジーなところ。
たとえば、自動改札なんてものはカルトレインにはない。
カルトレインというのは、カリフォルニアの西海岸をサンフランシスコからサンノゼまで走ってる鉄道で、車を持たない人の移動でもっとも一般的な移動手段の1つだ。写真ではわかりにくいかもしれないけど、これぞアメリカ!って感じで、かなりデカイ。2階建てで、自転車なんかも持って乗ることができ、轟音を響かせながら走る。
で、このカルトレイン、基本的に全部無人駅だ。もちろん、改札なんてものはない。どうやってClipperCardを使うかというと、乗車駅に置かれている端末にタッチ(TAG ONという)して、乗車後に、降車駅に置かれている端末でタッチ(TAG OFF)する。
面白いのは課金方式だ。実はTAG ON時に、想定されうる限り最高額の料金(20ドルくらい)をカードから引き落としてチャージしておき、TAG OFF時に実区間分の料金を残した上で、不要分を返金(Refound)する。デポジットのような感じだ。つまり、TAG OFFを忘れると返金されない。TAG OFFを忘れた方が悪いというスタイル。
そんな適当な仕組みと運用だと、クレームがついたり無賃乗車する人が続出するんじゃない?!なんてエンジニアは思っちゃうわけだけど、そこは運用でカバーしている。ルールがとても厳しいのだ。
たまに車掌さんが検札をして車内を回っているだけど、そのときにTAG ONを忘れて乗っていると、ものすっごく怒られる。何人か怒られている人を見たことがあるんだけど、日本の怒るとかのレベルではない。列車は最寄り駅に停車し、罰金200ドル払うか、警察を呼んだから、降車して逮捕されるかどちらか選べと怒鳴られる(本当に警察来てる)。ものすごく怖い。必ずTAG ONを確認する習慣が着いた。
アメリカの仕組み全般的に言えることなんだけど、基本的に自己責任という運用方式が多いような気がする。鉄道事業者は取るだけ取るし、消費者は返してもらえる分だけ返してもらうという感じ。
一見不親切のように見えるこの仕組みだけど、実はとても、消費者と提供者の責任分界点が明確で合理的だ。アメリカの運用は、ルールを大まかにざっくり、そして、しっかりと決める。で、細かい運用や問題は、問題が発生したときに、レイジーに裁量をもって対応する。
だから、たとえClipperCardの認識速度がタッチして3秒くらいかかる酷い実装でも(Suicaの100倍くらい反応速度が悪い)、自動改札やインフラの整備にお金や時間をかけなくても、ルールの大枠の中でうまく回るし、導入が始まれば、合理的な実装かつ低コストなので、一気に広まる。
良い意味で適当。これがとてもアメリカ的で、リーンなスタイルだなと感じる。 シリコンバレーのアプリやWebサービスの開発にも共通しているなぁって思う。
面白いこと、便利なものを、細かいことを考えずに、とりあえず実用化しちゃうのがアメリカ流。日本のWebやアプリ開発の現場は、こういう文化の人たちと戦っていかなければいけないのだ。
問題や責任は、よっぽど大きなものが想定されない限り、起こった時に考えればいい。こういう考え方が、日本の現場にはもっと必要なのかもしれないね。
最後に、技術的なことを書いておくと、ClipperCardはNFCの種類ではType2(MIFARE)を使ってる。日本のSuicaに使われてるFeliCaよりは価格競争力はありそうね。
あと面白いのが、ClipperCardのWebサイトで、カードのシリアル番号を入れて、そこに自分のクレジットカードをひもづければ、クレカ引き落としのオート・リロード・カードになったりする。とても便利。
乗車履歴や残高確認もオンラインでできちゃいます。
アメリカはオンラインとオフラインをうまく組み合わせてサービスを作るのも進んでるなと思う。「WebでできることはWebでやればいいじゃん!便利だし安いしスケールするし!」というメッセージを随所から感じる。
少なくとも、全PC用にPasoriを買わせるって仕組みよりは、すごく合理的だよね。